自動化の進展とそれに伴う自分たちの生活の変化を考えよう
自動化技術について知るとともに、自動化の進展を整理することで、現在や将来の生活でどのように活かすことができるかを考える。
学習活動の概要
人々の生活を便利にする機械による自動化の仕組みを調べたり、簡単なプログラミングを行ったりする活動を通して、自動化システムを開発・運用することによって社会に貢献できる職業があることや自動化システムを開発する方々の思いに気づき、自分たちの生活における自動化技術を見直し、現在や将来の生活でどのように生かすことができるか考えようとする。
探究課題:自動化の進展とそれに伴う自分たちの生活の変化
本単元においては、身の回りの工業製品の中から自動化されている機械に目を向け、その仕組みを体験的に知ることや開発者の思いを知ることで、自分たちの生活にもたらされる影響やこれからの技術が応用される可能性について考えていく。その上で、自分たちの身の回りの生活に目を向け、どのように自動化の技術を生かしていくことができるのかを考えることを通して、これからの高度に情報化された社会の中での自分の生き方や技術との付き合い方について考えを深めていく。
本単元は、学習指導要領第5章総合的な学習の時間第3の2(9)後段部分「第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には、プログラミングを体験することが、探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。」に基づき指導するものである。
「日々の作業を自動化してくれる機械か゛実際に身近な生活や暮らしを豊かにしてくれているものなのかと゛うか 」を明らかにするために、実際にプログラミングの体験を行うこととする。
「例示によるプログラミング」と「ルールによるプログラミング」を経験することで、認識して動作を行うという自動化された機械の仕組みに気付くことができるようにする。このようにプログラミング体験を通して得た情報をもとに、自分たちの生活の中で自動化によってもたらされる生活の変化を実感したり、予想したりすることができるようにする。
ビデオ等の教材提供
提供内容
- 身の回りのどのような機械に自動化された技術が用いられているのか
- ビデオ(お片付けロボットのデモ映像)
- ビデオ(お片付けロボット仕組み解説)
- ビデオ(自動化技術の応用可能性)
- ビデオ(開発者へのインタビュー)
学習指導計画例(総時数:27時間)
目的
私たちの日常生活や社会において「技術」が活用されていることを理解するとともに、これからの未来について考えることで、この後に行われる企業と連携した総合的な学習の時間の授業に関心をもって取り組めるようにすること
- 現在の私たちの生活を便利にしている「技術」が存在すること
- 今後も様々な社会の問題を解決して未来を作っていく活動が重要であること
- それを担っていくのは私たち(児童)だという理解をすること
本時の展開
- 生活を便利にしている「技術」を知る
- 現在の生活の便利さが、昔は当たり前ではなかったこと
- 現在でも様々な「技術」が私たちの生活を便利にしていること
- 私たちの生活にはすでに様々な「技術」が導入されており、生活を便利にしてくれていることを知る
- 学校・家の中にコンピューターやコンピューターに関連するものはありますか?
- 様々な社会の問題を解決して、未来を作っていく活動が重要であることと、それを担っていくのは私たち(児童)だという理解をすること
- Society5.0のムービーを鑑賞 (2020年1月で公開停止)
- 上記までの指導をふまえて、今後行う企業と連携した授業を説明する
【課題の設定】(2時間)
- 5年生の社会科の学習をもとに身の回りの生活が便利にしてくれる工業製品にはどのようなものがあったのかを振り返る。工業製品の中でも、「自動」という言葉のつく機械を意図的にグループ分けして取り上げ、その共通点を考えてみる
- スーパーマーケット等のチラシをもとに、工業製品とその他のものに分ける。
- 工業製品には、車、電子レンジ、テレビ、スマートフォン、スマートスピーカー、お掃除ロボットなど多様なものがあることを認識する。
- 見つけた工業製品の中でも、自動車、自動ドア、自動販売機、自動改札機、全自動洗濯機、自動食器洗い機、などを意図的にグループ分けして取り上げ、その共通点を考える。
- それらの共通点は何か? 「人が関わらなくても動く」「状況に応じて異なる動作を行う」など。
- 上記の共通点から、「人が関わらなくても動く」「状況に応じて異なる動作を行う」他の機械(「自動」という言葉を含まないものも含む)を考えてみる
- センサーライト、冷蔵庫、エレベーター、ゆりかもめ
- 電卓、電話、インターネット
- 自動化された機械の中で、自動ドアを例として取り上げ、自動化のための機械には、「状況を認識する部分」と「動作を行う部分」の2つの要素があることに気づく(「動作」は必ずしも物理的な動作とは限らない)
- 自動ドアは、「人が来たら」自動的に開くけれど、「人が来た」はどうやって分かるんだろう?→認識する機能が必要。そして、「開く」ためには、動く部分が必要。
- 自動改札は、「人が通り終わったら」自動的に閉まるけれど、「人が通り終わった」ことはどうやって分かるんだろう?→認識する機能が必要。そして、「閉まる」ためには、動く部分が必要。
- その他には、身の回りのどのようなものに自動化の技術が使われているのだろう?
【情報の収集】(5時間)
- 身の回りのどのような機械に自動化された技術が用いられているのか、株式会社Preferred Networksから提供される動画を用いながら情報収集する
- 動画から分かった自動化された機械を整理する。
- それぞれを自動化の複雑さのレベル(賢さ)で予想して、直線上に並べてみる。
- どこからをAIを呼ぶのか予想することで、その分類がとても困難であることに気付く。賢さにはひとつの定義はないので、考えてみたい。
- 直線上に並べたこれらの機械に対して、どれが「AI」であるかを考える
- 人によって「どこからAI」と呼ぶかが変わってくるということを実感する。
- この経験を通して、「AI」が必ずしも特定の技術を指すのではなく、多様な意味で使われることを知る。
- 私たちは一体、何をAIと呼んでいるのだろうか?
- 人工知能(AI:artificial intelligence)については、明確な定義は存在しないが、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」(一般社団法人人工知能学会設立趣意書からの抜粋)とされている。
- その手がかりになるビデオを見てみたい。
- ビデオ(お片付けロボットのデモ映像)を見る
- お片付けロボットのデモ動画を見る。
- お片付けロボットはプログラムされており、物を認識し(それがおもちゃかどうか、どの向きに置いてあるか、など)、それに基づいて動作を行うことに気付く。
- どういう状況だと、お片付けロボットがうまく動かないか、意地悪な状況を想定してみる。
- 片付けるべきものがシーツの下に隠れている、水の入ったコップがある、縫い針のような小さなものがある、など。
- お片付けロボットが自動化レベルの直線上のどこに位置づけられるかを考える。
- お片付けロボットをAIと呼んでも良いか考える。
- これを「AI」だと思う児童がいてもよいし、そうではないと思う児童がいてもよい。
- 自分たちでは、正直判断がつかない。仕組みを知りたい。
- ビデオ(お片付けロボット仕組み解説)を見る
- ロボットがカメラ画像を通して状況を認識する仕組みについて理解する(物を見るための装置、物を認識するための機械学習の存在を知る)。
- 認識結果に基づいて動作を行う仕組みについて理解する(認識結果に基づいてものを掴む、目的地に運ぶ、そこで離す、という一連の動作が必要であることを理解する)。
- ビデオ(自動化技術の応用可能性)を見る
- PFN開発者のインタビュービデオを視聴する。ピッキングロボット、外観検査などを通して、認識と制御という自動化のやり方が自動運転やその他の領域で広く適用可能であること、また機械学習の進化によって、画像認識や音声認識の分野では、人間の認識能力に匹敵するようになってきたことを知る。
- ビデオ(プログラミングって何?)を見る
- 西川社長のプログラミングについてのインタビュー動画を見る。なぜプログラミングを学習するのか、どんなところに使われているのか理解する。プログラミングは楽しそうだ、という感触を得る。
【整理・分析】(3時間)
- これまでに見たビデオから、AIの技術について整理する
- 機械には、様々な自動化のレベルがあることを認識する。
- 特に画像認識については、人間の認識能力に近づいてきていること。
- 「AI」とは、人によって捉え方が違っても良いことを知る。
- 自動化には、認識と動作の2つの部分からなることが分かった。
- AIの技術によって人ができなかったことについてできる可能性があることが分かってきた。どんな仕事をAIが代わりにやってくれるのだろうか?
- 機械による仕事の代替についての資料を見る
- 過去に、人がやっていた仕事を機械が代わりに行なっている例を知る。電話交換手、計算手、改札係員、エレベーターガール/ボーイ、…。
- 今後、機械によって置き換えられる仕事について考える。
- オズボーン・レポート
- 有人レジ→無人レジ
- タクシー運転手
- 荷物の配達員も機械に変わっていくだろう
- 今後、新たに生まれる仕事について考える。
- 機械がやったほうがうまくできるけど、人間がまだやっていることはなんだろう。
- スポーツ、特にマラソンや短距離走は車のほうが優れているがなくならない。
- 将棋やチェスはもうコンピュータの方が強いが、プロの棋士はいなくならない。
- チェスのプログラムは人より強くなったが、そのプログラムと戦うことで人も強くなった。
【まとめ・表現】(1時間)
- これまでの学習から、自分たちの生活と機械の自動化というテーマで感じたことや考えたことについて振り返りを書き、交流する
- 自動化が急速に進んでいることや、これからの可能性は少し理解できた。
- 今後何が自動化されていくのか、見通しをもつことは難しい。
- 自動化は本当に、私たちの幸せを向上させるだろうか。
- 自動化に頼りすぎることで、人は退化しないだろうか。
AIは、本当に私たちの生活を豊かにしてくれるものなのだろうか
- 自動化が急速に進んでいることや、これからの可能性は少し理解できた。
【課題の設定】(1時間)
- お片付けロボットで画像認識技術が使われていることを再確認し、画像認識を使って生活を豊かにする自動化について考える
- スマートフォン等、暮らしの中で身近にあるものに使われている。
- 機械には、その複雑さに応じて様々な自動化レベルがあることを振り返る。
- 自動化するには、状況を把握する認識部分と、その認識に応じて動作を行う部分があることを振り返る。
- 「何気無く使っているけど、その仕組みはわからない。」
- そもそもどういう仕組みなんだろう?生活を豊かにするものなのかを判断する前に、まずは、自分たちで実際に体験して調べてみたい。
- 画像認識を考えるために、画像認識の仕組みについて考えることを課題とする
- ここでは数字文字の認識を対象として、ルールベースでのプログラムと機械学習によるものの違いはなんだろう。
- Preferred Networks提供のプログラミング体験をもとに調べていく。
【情報収集】(2時間)
- ルールベースで数字文字を判別するプログラミング体験を行う
- アラビア数字の形に特徴があることを理解し、コンピューターの気持ちになってどのような判別ロジックを作ってみる。
- ルールベースではどのように判別しているのかを理解する。
目的
人間がルールを決めて数字文字(アラビア数字=算用数字)を認識するプログラムを作る体験を行い、どのように数字の形を判別するかの仕組みを知る
実施内容
- Scratchで数字の特徴を識別するためのブロックを用意しているので、それらを組み合わせて数字を判別するプログラムを開発する。
- アラビア数字の形の特徴を使って、条件分岐で判別ロジックを作っていきます。
- 各数字の特徴(例:タテの線がある、カーブがある等)を確認する(下記の表を参考)。
- 0?9の数字のすべてを判別するロジックを作るのは難しいので、児童の特性に合わせて少しずつ「テストする数字」を追加するようにしてください。
【情報収集】(3時間)
- 例示によって数字文字を判別するプログラミング体験を行う
- お片付けロボットのように柔軟に判断できるプログラムがどのように作られているかの基本的なところを理解する。
目的
人間が手書きした数字文字の例からコンピューターが特徴を抽出して、数字文字を判別するプログラムを作成することで、お片付けロボットのようなプログラムがどのように作られているかの方法を理解する
実施内容
- あらかじめコンピューターに例示して学習させている「アラビア数字」「タイ数字」を、手書きしてみて認識されるかどうか体験する。
- その後、グループに分かれて各グループを〇〇星人として、新たに数字を作る活動を行う。
- 作った数字文字を手書きで記入し、写真で取り込んでコンピューターに学習させる。
- 児童の誕生日などを〇〇星人の言葉で記入して、正しく認識されるかどうか確かめる。
【整理・分析】(2時間)
- ルールベースのプログラミング体験と、例示的プログラミング体験をもとに、どのような違いがあったかを整理する
- 例:ルールベースでは、数字の特徴を人間が判断して条件分岐を作って判別した。
- 例:例示的ベースプログラミングでは、例となるものを人間がコンピューターに登録して、コンピューターが判断するロジックを作った。
- 例:ルールベースだとルールに正確に当てはまるものは判別できるが、数字の1を斜めに書いている人もいるはずで手書きの数字の場合は正しく認識することができないのではないか。
- 例:例示的プログラミングでは、手書きの文字でも柔軟に判別することができるようになったが、思ったとおりに認識してくれないこともあり、例示した手書きの文字が悪かったのか、もっと多くの数字を読み込ませるほうがいい、などがわかった。
- 自動化するということはどのような作業か、社会にとってどのような意味があるかを話し合う
- プログラミングには例示によるものと、ルールによるものがあることがわかった。
- この数字文字認識プログラムと同じ仕組みで、どういったものが作れるだろう。
- 数字を認識するのではなくて、花の判別(チューリップとタンポポを見分ける)に使えるだろうか。
- 数字を認識するのではなくて、手話の翻訳ができるだろうか。そのためにはどのようなデータが必要だろうか(動きのデータ、など)。
- 世の中で「AI」と呼ばれているものは魔法ではなく、誰かがデータで音や画像を認識させて作ったものだ。
- 大切なのは正確なデータを集めることだということがわかってきた。
- ここまで、プログラミングの仕方について学習した。この技術が自分たちの暮らしの中でこれからどのように発展していくのかを想像してみよう。
- 補足(PFNからのメッセージ)
- 世の中の価値の多くが情報技術、特にソフトウェアによってもたらされていること("Software is eating the world” by Mark Andreessen)。
- 世界中で使われるソフトウェアを開発することで、世界に大きなインパクトをもたらすことができること。プログラム開発者はそのような大きな夢を持てること。
- 「例示に基づくプログラミング」は新しい考え方で、今後のプログラミングの多くは例示に基づくものになるだろうということ ("Software 2.0” by Andrej Karpathy)。
- 機械は、ロボットのように物理世界を相手にするようになることで、より私達の生活を変えていくであろうこと、そのような世界を実現するためにPFNは努力していること。
- 作ったものを広く広める価値について考える。
- プログラムは多くの人に配布することが比較的容易であるため、優れたプログラムでありかつそれを多くの人が利用するようになれば、広く社会にポジティブな影響を与えることができる可能性がある。
【まとめ・表現】(3時間)
- AIは自分たちの生活を豊かにしてくれるものなのかどうか話し合う
- 人間の使い方や分野によって可能性は異なるけれど、きっと私たちの生活を豊かにしてくれるものには違いない。
- 実際にどんな分野で活用することができそうか考える。自分たちの身の回りで役立てることができそうな場面や場所についてアイディアを出し合う。自分たちが自動化してみたい作業は何か。
- 「生活を豊かにしてくれるもの」「生活を助けてくれるもの」「社会に悪い影響を及ぼすもの」など複数の視点で意見が交流できるようにする。
- 学級での話し合いをもとに、自分の考えをレポートにまとめる。
- 学級での意見を交換した内容をもとに、企業の方に自分たちの考えを提案してみる。
こちらの学習について、「修正意見」生かした指導例別案を追加しました。学校での指導計画作成にご利用ください。 (指導案別案作成にご協力頂いた先生方はこちらに記載しています)
- 自動化について興味を持つための文脈が必要。家の人へのインタビューで、「購入した家電で便利だと思う機能」を集めて、共通するものが「自動化」であるというような流れを入れる
- 画像認識の応用技術について、花の判別や手話の通訳など画像認識の応用技術について調べ学習を行いたい